★ ARNKAメール報第164号 2010.02.08
国際NGOの人権レポートにタイ政府が反論

 国際的な人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が最近発表した、2009年中の世界の人権状況報告書『ワールド・レポート 2010』におけるタイの記述について、タイ外務省は2010年1月22日、1NGOの報告書に対しては異例とも言える長文の反論を発表しました。
 「外国NGOはまだタイの人権状況の発展を正しく理解していない」と題されています。

 この反論は、2006年に発生した軍事クーデター以来、タイが国際的な人権批判に敏感になっている背景の中、最近のタイ政府の人権問題に対する考え方を知る上で、また、国際的人権団体の報告書がタイ政府に動揺(?)を与える事例としても興味深い資料と言えます。
 そこで、北朝鮮人権関係の言及はありませんが、長くなりますが特に全訳を紹介することにします。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチ『ワールド・レポート 2010』 でのタイに関する記述の概要及び報告書全文は、以下のウェブサイトで参照・ダウンロード出来ます。
  http://www.hrw.org/world-report-2010

反論文のソース:タイ外務省ウェブサイト(タイ語)
  http://www.mfa.go.th/web/2672.php?id=33607
※英語版もあり。
  http://www.mfa.go.th/web/35.php?id=23770
(英語版は要約されています。本会の訳はタイ語版から。)

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「外国NGOはまだタイの人権状況の発展を正しく理解していない」

 (国際的人権NGOの)「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)が、同団体発行の『ワールド・レポート 2010』でタイの人権状況に1章を割り当てて言及していることについて、タイ外務省のニモン・キットチョープ情報局長兼報道官は、「同報告書は多数の人権報告書のうちの一つに過ぎず、タイも同報告書で言及された世界90ヶ国のうちのひとつに過ぎない」と述べた。

 同報道官はさらに、次の見解を示した。
 「ヒューマン・ライツ・ウォッチが同報告書と共に発表している情報は、このNGOが人権侵害という特定問題のみに関心をもった団体であって、言及されているほとんどの事案はタイ政府に関係なく表面的な見方に留まっており、真実及び昨年中のタイ政府のプラスの動きを全く無視している。そのため、同報告書はタイの人権状況の全体像を適切に描いておらず、読者にタイ政府が人権の擁護と推進について後退しているとの誤った認識を与えている」

 同報道官は続いて次のように述べた。

 「タイ政府はここ数年、国民福祉を含む人権擁護の推進に努めてきた。特に、様々な政府保護が必要な人々に対するその提供である。例えば、(義務教育の)15年間授業料無料化、高齢者及び障害者への福祉支援強化、子供と女性に対する被害からの保護、外国人労働者の子女が父母と同居できるようにするための外国人労働者登録制度の導入がある。
 タイはアセアン議長国として地域の人権状況基盤を向上させるための数多くの新機軸を打ち出している。例えば、アセアン加盟国代表からなる人権委員会の新設、アセアンリーダーと市民社会代表との面談機会の創出がある。
 これらはいずれも、アセアンを市民中心であらしめるもので、タイは議長国としてこのビジョンを提示している。」

 同報道官はそのほか、同報告書がタイについて過度に扱っているようないくつかのトピックについて次のように述べた。

 「例えば、昨年の民衆の政治的集会に言及する中で同報告書は「弾圧」(crack down)という言葉を用いている。これについては、昨年タイが大きな政治的矛盾に置かれた中で、アピシット首相が『タイ国民すべてに対して、政治的意見の表明及び平穏な集会を含む、憲法の定めた権利を閉ざすことはない』と明言しており、これはタイ政府が常に重視し堅持する基本的な立場である。
 平穏維持のために関係者はよく自制し、実力行使を出来る限りまで避けてきた。
 2009年4月にタイ政府が平穏維持のために非常事態宣言を発令しなければならなかった際にも、治安維持関係者はすべての方面から死者が発生することがないように最大限の注意を払った。実弾発射は群衆に注意を喚起し退かせるため空に向けての発射のみであり、模擬弾発射は群衆が治安維持関係者に向って来た場合のみに限定されていた。
 違法者は政治的グループや立場の違いによらず、すべて法に基づいて取り扱われた。政治的グループによって対応を変えたり二重基準を用いることはなかった。」

 「南タイ国境県の事案については、タイ政府は特別法を適用し明瞭に取り扱っており、案件ごとに特別な権限を有する責任者を任用できるよう、また、被害申立の方法も改善するように制度的に進めている。毎回の緊急事態宣言の発令と発令期間延長については、精密で十分な審査と評価を行っている。同時に政府は、刑法よりもより束縛が低い治安維持法の適用を、ソンクラー県内の4郡に対して試験的に行うことを始めている。
 従って、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書が南タイ国境県に対する法律適用に関して透明度が増しているのを認めているにしても、ヒューマン・ライツ・ウォッチの情報発信の方向は事実とは全く逆である。」

 同報道官はさらに以下を強調した。

 「タイはタイ政府職員が誤った行為を行ったにもかかわらず処罰を免れることなど認めていない。タイ政府の公正な取り扱いに疑義を呈するべきではない。たとえ法的手続きに長い時間を要したとしても、それは通常でもあり得ることで、他の国々でも同様である。
 ナラティワート県のアンフンコーン・モスクの件については、政府は上記のような行為を非難し、責任者を派遣して急ぎ調査する一方、どのグループによる行為であるかの結論は慎重に行った上で、2010年1月14日に重要容疑者の身柄を担当者に引き渡した。
 また、ヤパー・カーセン氏死亡事件に関しても国家不正防止委員会に送致され、関係する兵士は処罰を受けた。」

 同報告書が引用する不敬罪については次のように述べた。

 「タイ政府は同法の適用を巡る問題についてよく理解している。タイ政府は、この法律が勝手な解釈の下に適用されることや特定人物に手段として用いられることを防ぐため、この件に関する新しい枠組みを委員会形式にて設置している。
 この委員会は、この法律の適用を明瞭にするための調整を行う職員を有している。
 王室は国家にとって重要でかつ他の方法で守ることが出来ないため、国民の間の混乱から王室を擁護していくために不敬罪は必要である。」

 ラオスのモン族の送還に関しては次のように述べた。

 「ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書はタイに対して公平を欠いている。特に、タイが長く行ってきた人道的支援、及びタイが不法密入国者の負担を常に抱えざるを得ないという問題の重大さについて全く考慮していない。
 タイは現在、戦闘から逃れてきたミャンマー人10万人近くに居所を提供している。タイはこのような大きな負担を引き受けざるを得ず、国際的団体とも常に密接に連携しながら、真に救援が必要な人々のための出口を探している。
 このラオスのモン族が、タイの出入国法に違反した密入国者であるにもかかわらず、タイは居所を提供し、NGOを含む国際的な団体と協力して人道的支援を途切れることなく与え続け、長期的な解決についても考え続けてきた。タイはこのラオスのモン族が、タイが送還を決定する前に安全な第3国出国が決定したと確信している。
 従って、2009年12月28日に行った送還は、人権的基礎に十分に配慮した上で制度的に平穏裡に行われた。また、最も重要なことは、この一連の過程すべてが、このラオスのモン族の理解と協力の上で行われたことである。
 今回のグループそれにこれ以前に帰還したラオスのモン族が、その後問題に直面したとの報告はない。ラオス政府およびその他第3国の合意により、ラオスのモン族が自身の国に居住地を設けるようさらに帰還を進める可能性がある。」

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