★ ARNKAメール報第189号 ★ 2011.01.10
タイ人拉致判明から丸5年(4)
-タイの有識者に聞く-

 1978年に起こったチェンマイ県出身タイ人女性アノーチャー・パンチョイさんのマカオでの失踪が、実は北朝鮮拉致であったことは、チャールズ・ジェンキンスさん証言に基づくタイ政府身元確認によって、2005年11月に判明しました。
 北朝鮮はアノーチャーさんの存在を認めず、アノーチャーさんの帰還は叶わないまま拉致判明から丸5年が過ぎ、現在6年目に入りました。

 ARNKAはこれを機に、バンコクのタイ国立タマサート大学日本語学科で教鞭を取る、ワリントン・ウーウォン准教授にお話を伺いました。
 ワリントン准教授は日本研究者で、タイで日本人拉致問題をフォローする唯一のタイ人研究者です。
 2002年の日本人拉致被害者5人の帰国以来、日本人拉致問題の動向をフォローして来ました。
 タイ人学生に対する講義の中でも2002年から毎年、日本人拉致問題を取り上げて来ました。
 タイ人拉致に関しても、2005年11月の拉致判明以来フォローして来ました。

 同准教授は、2006年12月には東京の国際会議「北朝鮮拉致の全貌と解決策」(家族会・救う会・拉致議連共催)に参加しました。
 「家族会」訪タイ時には、飯塚副代表(当時)がタマサート大学を訪問し、同准教授の下で拉致問題を学ぶタイ人学生と面会するなどして来ました。

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ARNKA
 ‐ 「この5年間のタイ人拉致問題の動きを、どのように見ていますか?」

ワリントン准教授
 ‐「この5年間のタイ人拉致問題の動きについては、残念ながら進展は見られません。
 ですから、報道などを通じて断続的にこの問題を取り上げていかなければ、いつの間か忘れ去られてしまうのではないかと懸念しています。」

ARNKA
  ‐「タイと日本は国情も異なりますが、両国の拉致問題への対応で最も異なるのは、どのような点でしょうか?」

ワリントン准教授
  ‐「両国の拉致問題への対応の仕方で最も異なる点は、メディアと国民の関心の高さの違いといえます。
 日本においてはメディアが一斉にこの問題を取り上げるなど、積極的な姿勢が示され、政府レベルでも拉致問題解決に向けて働きかけています。
 一方、タイ政府の対応に関しては変化がありません。拉致された可能性が高い、アノーチャーというタイ人女性は行方不明者と見なされているだけなので、この問題に対する関心は薄いようです。
 現在、タイ政府の関心事は、次の下院解散総選挙で各党が国会議席を何席確保できるかという点だけで、その他の問題に目を向ける余裕はないのではないかと思います。」

ARNKA
  ‐「タイと日本の拉致被害者家族が置かれた社会的な立場は、どのような点で異なるでしょうか?」

ワリントン准教授
  ‐「タイ人は、この拉致事件をあまり深刻には捉えていません。タイ国内では、それよりも、残酷な事件がもっと頻繁に起こっているのが現状だからです。したがって、わずか一人の女性が出稼ぎ先で拉致されたことに対しては、おそらく関心が薄いだろうと思われます。仮に、この事件がタイ社会に知れ渡ったとしても、国民が救援活動に参加するとは到底思えません。
 また、タイは未だ身分社会の国です。社会的および経済的に恵まれないタイ人拉致被害者家族がいくら助けを求めて叫んでいても、何も変わらないのではないかと感じます。
 一方、日本の場合は多くの日本人が拉致されました。そして、その救出のために、いくつかの救援活動団体が結成されました。そして、この事件が人権侵害問題だと政府に訴え続け、圧力をかけている光景がよく見られます。
 このように、多くの人々によって助けられ、支えられていることにより、被害者家族は心強くいられるのだと思います。」

ARNKA
  ‐「この5年間で、タイ人拉致問題に関するタイ社会の理解は進んだのでしょうか?」

ワリントン准教授
  ‐「タイ人で拉致問題に関心や理解を示しているグループは、大学研究者大学生、その他NGOのごく一部の人々に限られます。それ以外の一般のタイ人は、果たしてどの程度この問題に対して、認識しているか疑問があります。」

ARNKA
  ‐「タイ人拉致問題の解決は、判明した2005年の段階から全く進みませんが、この理由は何だと考えられるでしょうか?」

ワリントン准教授
  ‐「タイと北朝鮮との間には、良好な政治的関係があり、貿易等の経済活動も活発に行われています。タイ政府はこのような関係を壊したくないと考えられます。つまり、国益を優先したいために、タイ人拉致問題が見送りにされているとの見方ができるでしょう。」

ARNKA
  ‐「タイ人拉致問題解決のために今後タイ政府が取るべき対応・立場・方向は?」

ワリントン准教授
  ‐「北朝鮮と良好な関係を保つことの方が重要だとするタイ政府のはっきりとした方針があるため、以前にも増して、タイ人拉致被害者の救出活動を政府に期待できないことがわかっています。この事実を踏まえ、今後タイ政府に望むことは、人権の大切さを学校教育に本格的に取り入れるということです。」

ARNKA
 ‐「最後に、日本の拉致被害者ご家族と救援活動にメッセージを伺えればと思います。」

ワリントン准教授
 ‐「どの国も主導者グループが最も問題を起こしているのだと思います。他国の資源を奪い、世界を支配したいなどという強い欲望によって、国と国との争いになったわけです。しかし、その結果、最終的に犠牲になったのはその国の国民なのです。拉致事件もその一つの例です。
 長い歳月にわたって苦しみ続けていらっしゃる拉致被害者家族の皆さん、これまで大変な苦しみやご苦労を重ねてこられたことと思います。この先もこの旅がまだ続くであろうと思いますが、どうぞ心身ともにご自愛ください。」

ARNKA
  ‐「長時間ありがとうございました。」

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1.タイ人拉致被害者アノーチャー・パンジョイさん個人史
  (タイ語版・英語版・日本語版)
2.北朝鮮拉致問題に関するタイ外相インタビュー記事日本語訳[2006年2月]
3.タイ人拉致被害者実兄の思い
  [2006年4月ReACH/CHNK共催ワシントン拉致被害者救援コンサートで読まれた手紙]
  (タイ語版・英語版・日本語版)
4.タイ外務省ウェブサイトの北朝鮮紹介ページ日本語全訳
  [タイ-北朝鮮関係の基礎資料]
5.タイ-北朝鮮貿易額統計2001-2005年
  [タイは04年より北朝鮮の対外貿易高第3位](タイ語版・日本語版)
6.日本の北朝鮮人権法タイ語訳
7.タイ人拉致問題パンフレット[A4両面三つ折用](タイ語版・英語版・日本語版)
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