* 第二部 * 鬼丈夫 * その二 *
翌日、再び落月軒を訪れた樂梅は、庭師と称する老柯(実は起軒)から起軒の生前の様子や起軒から贈られたという仮面の謂われなどを聞き出そうとする。死後の起軒と交信できるという老柯に様子を尋ねるが、よくない状態と聞いて樂梅は涙する。
起軒が梅花を描いているのを見て、樂梅の名前に因んだ絵だから届けたら喜ぶのではないかと紫煙が提案するが、樂梅を悩ますだけだと起軒は破いてしまう。紫煙は絵の切れ端をそっと起軒位牌に添える。発見した樂梅は大喜びで老柯に報告する。
樂梅の部屋に忍び込んだ紫煙は、うたた寝している樂梅に上着を掛けてやる。樂梅はてっきり起軒が掛けてくれたと信じ込み、感激する。翌日、樂梅の書いた詩をこっそり持ち出した紫煙は、起軒に届けて返詩を書かせようとする。
位牌の傍に置かれた自詩に返詩があるのを見て起軒の手紙と筆跡を比較し、親筆に間違いないと確認した樂梅は、起軒に気持が通じた、と感激。さっそく老柯に報告するが、意外にも老柯は怒ってビリビリに破いてしまう。
紫煙の仕業とわかった起軒は、怒って紫煙を殴打する。負傷した紫煙は萬里を訪ね、治療を受ける。虐待する起軒にも忍受する紫煙が信じられない萬里は「為什麼(何故)?」と詰問する。紫煙は、「起軒を傷つけたのは、この私だから。」と放火の犯行を激白し始める。動機は生母紡姑の柯家への怨みを晴らすためで、自分は起軒の実妹にあたると告白。
自詩への返詩は起軒の肉筆に間違いないという樂梅に対し、起軒生存を知っている映雪は、位牌を指さして「死んだ夫が返詩をよこすはずがない」と必死で否定する。そして、「死んだ夫を思って悶々とするより、正常な夫が欲しくないのか」と映雪の本音が出るが、樂梅は「他是我唯一的丈夫(起軒は私の生涯唯一の夫)」ときっぱり。
小珮から「落月軒で姑爺(起軒)の名前を呼ぶ声が聞こえる。」との話を聞いた樂梅が落月軒に駆けつけてみると、そこには母映雪をはじめ一族郎党が・・・。樂梅が問い詰めると「起軒の亡霊が出るので除霊していた」と萬里が嘘の上塗りをし、みんなそれに口裏を合わせる。
翌日、樂梅は落月軒の老柯を訪ねる。「起軒のことは忘れろ、もう来るな」と突っぱねられるが、起軒の面影を老柯に見て取る樂梅は思わず抱きついてしまう。しかし、老柯(=起軒)は樂梅を口汚く罵り、追い払う。
老柯が落月軒から出て行くと聞いて樂梅は、何故功労者を追い出すのかと柯家人に訴えるが、本人の希望と言われて話にならない。失意の樂梅に映雪は「四安村韓家に戻ろう。」と持ち掛けるが、「自分にその気はない。戻りたいなら小珮と二人でどうぞ。」という。
老柯が居なくなって失意の樂梅は、萬里を訪れて相談を持ち掛ける。「老柯が死んだ起軒のはずもないのに、面識のなかった老柯が自分の身上まで知っているのは起軒の霊が老柯に乗り移っているからではないか」と訴える樂梅に対し、老柯=起軒の真相を知っている萬里は「それは現実逃避だ。正常な精神を取り戻せ。」と説得するが、樂梅は失望して去る。
失意の樂梅を蔭で見ていた起軒は、萬里に「樂梅を娶ってくれ」と持ち出す。こんな話を持ち掛ける起軒は、萬里の心中を察せられないばかりか、あれほど執心していた樂梅の気持さえ全く理解していない証拠。狂っているとしか言いようがない。「何故断る?」と詰問する起軒に、困った萬里は「我的心上人是紫煙」と明かす。蔭で当の紫煙が一部始終を聞いていたと知って照れる萬里。
居なくなった樂梅を案じた小珮が映雪を呼んでくる。「回四安了(四安に戻る)」との置き手紙に映雪はひと安心。しかし、小珮は「奇怪了(おかしいな)。先日、自分(樂梅)は戻らないと言っていたのに。」と。頭は弱いが、洞察力では映雪よりも小珮のほうが遙かに鋭い。韓家に戻ってみると案の定、樂梅は戻ってない。小山坡で起軒との想い出を追っていた。宏達はこの時とばかりに「譲我娶你吧」と求婚するが、起軒の霊魂を信じる樂梅は相手にしない。
この世に頼れる人もなく、絶望した樂梅は起軒の許へと入水を図るが、小珮が発見して居合わせた男二人に救われ、一命を取り留める。
樂梅が入水する事態になったのは自分の不注意と自覚する小珮は、映雪に叱られるのを覚悟で自ら申し出る。しかし、樂梅の本心がようやくわかって後悔する映雪は、小珮を抱きしめ、激しく泣き崩れる。余事ながら、個人的に、最も感動する場面です。聡明な紫煙に比し、おつむの弱い小珮を悪く言う人があるとすれば、私はその人を信じません。 二人の泣き声を聞いて樂梅は目覚めるが、「生きたくない。死なせてくれ」と暴れる樂梅を必死で止める映雪と小珮。我慢しきれなくなった映雪は、「起軒活著」とついに真相を暴露する。
関係者総ぐるみで樂梅と小珮を騙すという壮大な欺瞞事件は、真相がわかってついに破綻する。そのシナリオライター(?)が誰あろう起軒とあっては笑い話では済まない。しかも、誰もが樂梅の将来を考えての方便であるところがややこしい。結局、樂梅自身が訴えるように、本人の気持を確かめもせず、勝手に想像して事を運んだのが間違いのもとということでしょう。
真相がわかって起軒を連れ戻そうと一家揃って寄宿先の萬里宅を訪れるが、老柯を演じる起軒は怖がって自分が起軒だと名乗れない。「問題は起軒の心にある」とする映雪の再度の説得にも、樂梅は「我要他(私には彼が必要)」と気持ちが変わらないことを告げる。
冷静さを取り戻した樂梅は、再び起軒のもとを訪ね、切々と柯家へ戻るよう説得、みんなにも勧められ、ようやく重い腰を上げて戻ることに。その晩、起軒の位牌を焼却して除霊する。
起軒と樂梅は二人だけで話し合う。「自分はもう昔の起軒ではない」といじける起軒に、「それがあなたの本心でないことを私は知っている」と切り返す樂梅。そして、起軒の書いた返詩を諳んじる。
起軒が生きているとわかって樂梅に笑顔が戻る。位牌と並ぶ偽りのもう一つ象徴である仮墓も壊す。「至於起軒他是我的丈夫。是我的責任。(起軒は私の夫。夫のしたことは私の責任)」と。隠遁生活の起軒が戻って、ようやく一家全員が揃った団欒。家長の士鵬は嬉しさを隠しきれない。
紫煙が萬里と抱き合っているのを見てしまった老夫人は、紫煙を呼びつけて真意を質すが・・・。結局、「紫煙は起軒が好きなはずなのに、何故?」と勝手に老夫人が思い込んでいただけ。紫煙は、「実は柯家丫頭だった紡姑の娘で、放火したのは自分である」と一方の真相を明かす。
萬里、宏達が樂梅のもとを訪れ、朋友四人で起軒・樂梅の復縁(?)を祝う。萬里・紫煙の関係を知る起軒は、紫煙に杯を持たせる。宏達は、自分にも面子があると小珮を傍に。小珮が萬里のことを"活菩薩(生き仏)"と呼んでいるのが微笑ましい。樂梅を救った恩人と認知しているからでしょう。
省略してますが、起軒の仮面を見た子供が、自分も着けてみたいから貸してくれとせがんで気まずくなる場面を受けた部分です。起軒の心理的病状が再発し「障害者の気持が健常者にわかるはずがないから、君は四安に戻れ。」といじける。ならば、同じ障害者であればいいのかと、樂梅は自分の眼を針で傷つけようとする。必死で止める起軒。「健常な私と同じ境遇の障害者の私、どっちが必要なのか」と迫る樂梅。ついに起軒は「我要健康的你」と答える。
翌日、一大決心をした起軒は、樂梅に仮面を取ってみせるという。「一生元には戻らない。」と念を押し、「(驚くといけないから)後退してくれ。」と要請する起軒に、樂梅は首を振って「没有必要後退。我都是你最親近的人。(後退する必要はない。私はあなたの最も近しい人間だから。)」。二人は一家に「落月軒で暮らす」ことを報告。延芳は起軒に笑顔が戻ったと大喜び。樂梅に対し「謝謝你」。
位牌に嫁入りした同じ場所で、今度は晴れて"生きた新郎"との結婚式。"冥婚"のときと参列者の表情が対照的ですね。この吉日に、老夫人から萬里と紫煙の縁組が発表される。「把紫煙許配給萬里」ですか。「紫煙を萬里に配給することを許す」って時代(大正二年)だったんですかね。
普通の夫婦の関係に戻った二人は将来の希望を語り合う。半年後、外に出て好奇の眼で見られても、起軒はもう動じなくなっていた。
演唱;姜育恆